複合機のUXに関する合宿討議 (加筆)

こんにちは、シツチョーです。
(最初に公開した内容について、ちょっと誤解が多いようなので、一部を加筆・修正しました)

報告が遅くなりましたが、2011年11月10日(木)~11日(金)と、(社)ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)ヒューマンセンタードデザイン小委員会の皆様と合宿討議@伊豆に参加させていただきました。

先日、ブログでも紹介させていただきましたがJBMIAの皆様とは、事務機におけるUXおよび長期的ユーザビリティの評価法について、ご一緒に議論させていただくことにさせていただいております。

当日はあいにくの天気でしたが、遠くに初島が見えるなかなか風情のところでした。

参加されたみなさんは、主に事務機器(コピー機やプリンタ、および複合機など)のメーカーで人間中心設計やデザイン、品質保証等に関わっておられる方です。

最初に前回の講演で僕の方から提示させていただいた「利用経験に基づくメンタルモデルの精緻化仮説」について、事務機においてそのようなプロセスはあり得るのか? 効率化を旨とする事務機において、利用のモチベーションや楽しみという視点は存在するのか? といった論点から議論をスタートしました。議論の詳細は公開できませんが、とてもいい議論をさせていただき、私の研究の大きなヒントをいただいた気がいたします。



ちなみに、「利用経験に基づくメンタルモデルの精緻化仮説」というのは、ユーザーの主観的体験であるUXとデザインとを結びつけるために、仮説的に示したモデルです。つまり、ユーザーのUXは、それによって「生活におけるモノの意味(=広い意味でのメンタルモデル)」が、徐々調整されていく過程である、という視点からみた一つの仮説モデルで、僕の過去の研究を整理する作業の途中成果です。

精緻化という言葉が、なにか正しい方向への誘導をイメージしがちですが、あくまで個人の生活のなかで、「ああ、この製品って、自分にとってこういう風に役立つんだな」とか「こうやって使っていこう」といった、意味の確立という程度のつもりで使っています。僕自身、これはまだいいまとめではないので、今後も議論で変化していきます。

さて、議論を活発にするために、事前に安藤研のUX研究部の学生に協力してもらって、コピー機の利用における、意欲の向上を、すごく簡単な実験で試してみました。


まず、コンビニや生協などでコピー機の利用経験がある学生に協力者になってもらい、X社の複合機(よく会社にあるタイプで、比較的低価格な?ランクの機能の製品)を操作するテストを実施しました。

タスクは、「4枚(A4片面刷り)の原稿を、両面印刷で5部、ホチキスを止めればすぐ資料として出せるように印刷する」というものです。要するに、両面でソートする、というものです。コピー機のユーザビリティテストではよくあるタスク。さて、どうでしょう?

うーん。口に指をあてて、考え込んでいます。。。彼は決して使ったことがないわけではないのですが。。。


いろいろやってもうまくいきません。まずもって、自動原稿送り装置(ADF)がついているのですが、その存在を知らないようです。コンビニのコピー機は、故障などを避けるためか、ほとんどの場合ADFが付いていません。だからだと思います。

ただ、彼の場合、「片面→両面」という設定そのものがわかっていないようです。


この初期画面でいうと、中央右よりに「両面/片面」の選択があります。彼は、「両面→両面」を選択しています。彼的には、「両面印刷をしなくちゃ」と思っているわけですから、どうしても「両面」という文字に誘目されてしまうわけです。こういう現象は初心者によく見られる現象です。ただ、このUIは、知っている人でもわかりにくいかもしれません。。。

結局、タスクはできませんでした。

そこで、一度、僕自身が同じタスクを実施して、成功する様子を操作画面が見えるか見えないか位の距離から観察させます。これをモデリング学習と言います。みなさんも、どこかの段階でADFというものの存在を知り、その使い方を覚えたはずです。先輩に教えてもらった人もいるでしょう。誰かが使っている様子を観察し、それで使い方を知ることは結構あることです。特に、コピー機は社会性の中にある機器、と言う特徴があります。ですから、その状況を想定し、モデリングをさせます。

すると。。。彼曰く「えー、そんな簡単なんすかー!」と驚ろいた様子。その後、再度タスクをやっていただきます。しかしながら、どうしてもうまくいきません。

彼の発話を聞いていると、どうも「原稿を読み込ませ」その上で「印刷にゴーサインを出す」というメンタルモデルのようにおもわれます。確かにコピー機の設定によっては、まず読み込ませることを先に処理し、その後読み込ませる原稿がないことを示すボタンを押下させてから、印刷の「スタート」ボタンを押すというモードになることもあります。しかし、現在のタスク(彼がモデリングした私の操作)はその必要はなく、処理の設定を先にさせてしまえば、読み込み=印刷でOKです。ただ、むしろ彼の発想の方が機械側の手順とはマッチしているのかもしれません。

モデリングをしても、結局タスクはできませんでした。

今回のラフな実験の目的は、コピー機を使うということだけでも、意欲が関わっているという、先に挙げた「メンタルモデル精緻化仮説」を確かめたいわけです。

現在の状況を確認しましょう。1回目の利用エピソードは、タスク完了できずガッカリし、かなりやになっているはずです。インタビューでは“このコピー使えねー”と思ったと言っています。意欲は低下したわけです。2回目の利用エピソードは、モデリングという経験であり本人の利用体験ではありません。でも、彼はそれを見て“なんと簡単だ、自分にも出来るかもしれない”と思ったと言っています。ADFの存在を理解し、そんな便利な装置だという風にメンタルモデルが修正されたはずです。それで使う意欲=自己効力感が高まった。

3回目の利用エピソードは、意欲高まった状態で、今一度タスク操作をやったわけです。ADFを使って。しかし、思ったように出来ない。“どうすりゃいいの”という苛立ちと共に、再び意欲が低下してしまったわけです。

自己効力感を提唱したバンデューラは、自己効力感を高める4つの方法をあげています。
    1.達成体験
    2.モデリング
    3.言葉による説得
    4.情動的喚起
(上記用語はバンデューラによる表現とはやや違います)

先にも示したように、モデリングは意欲を高めることがわかります。

ここでちょっと追加的な実験をしました。
利用意欲を高めるためには、上手に教えてあげればいいんじゃないかと。たとえばタスクの全部を教えるのではなく、ちょっとしたことがわかる体験を増やしたらどうかと。

バンデューラは、ゴールの分割によって多くの達成体験を増やすことで、自己効力を高められると言っています。通常ヘルプは、何かの方法を教えます。その考え方ではなく、わかる体験を増やすという方法をとってみたらどうかと。

そこで、次のような追加的な実験をしました。わかる体験としてボタンに対する音声ガイダンスを用意します。といっても急に実装できませんから、各ボタンについての説明文を用意、それを私が“機械みたいなしゃべり方で”読み上げることにしました。

問題は説明を出すタイミングです。そこで、各種設定を押した際にそのボタンの意味を読み上げることとしました。たとえば「両面→両面」ボタンを押下した場合は、「両面印刷の原稿を両面印刷でコピーする設定です」のようにヘルプをしゃべります。

実際にタスク操作をやってもらいました。やはり先ほどと同様に「両面→両面」ボタンを押したりします。が、同時にヘルプ音声が読み上げられるので「そうじゃないなぁ。。。」などとつぶやきながら、機能の探索を始める様子が観察されました。間もなく「あ、わかった! 片面→両面かー」とようやく理解。
ご覧ください、この喜びよう(笑)。このガッツポーズはやらせではありません(笑)

もちろんこれは、私が人間で隣で読み上げていますから、本当に読み上げ機能があったらよくなるということを言いたいわけではありません。ヘルプではなく、意欲が高まる手がかりをどう提供すればよいか、という視点で考えてみたらどうなるかという試みの例です。

たとえば、iPhone用のGoogleのアプリのヘルプはおもしろい作りになっています。
画面がシンプルなので出来ていることですが、実施のGUIにオーバーレイすることで、必要な情報を伝えています。ヘルプといえばヘルプですが、タスクのヘルプではありません。

こういう感じをイメージした音声ヘルプだったんですね。

佐伯胖は、かなり昔の本ですが『「学び」の構造』の中で、“覚える”と“わかる”の決定的な違いについて述べています。わかるための情報の出し方は、まだまだあるんじゃないかと思うわけです。これをヘルプといえばヘルプなのですが、個人的にはヘルプじゃない(w)。

追加的な実験の部分は、かなり適当感がありますが、今後模索したいところです。

(加筆・修正前にはこの後、わかってるね感についての記述がありましたが、改めて書きます)

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